小学校で長年教員をしていて感じていたことの中に、「子どもと関わる時間が年々少なくなってきている」ということがありました。
6時間授業が増え、放課後は会議ばかり。休み時間はトラブル対応。もっと、一人ひとりと話したい、向き合いたいけれど、なかなか思うようにはいかない毎日。
今、現場を離れて、違う立場で子どもと関わるようになり、見えてきたことがあります。
それが「コーチ」の存在の必要性。スポーツの分野では「コーチ」という存在は周知されていますが、教育現場での「コーチ」というのは、まだまだメジャーではありません。そこで、今日は、実際にわたし自身が行っている「コーチ」の役割をお伝えできたらと思います。
教育の場での「コーチ」って何!?
スポーツの場では「コーチ」という存在は一般的。では、教育の場での「コーチ」とは何なのか?
教育の場では「教える」ー「教えられる」という関係性が一般的です。対等ではないんですね。学校もずいぶんと変わり、子ども自身が考えていくプロセスを大切にして進めていくようになりました。でも、どうしても、学習の基礎・基本や「教えなくてはならないこと」が存在します。
また、学校では、先生と子どもが1対1でなく、1対複数で動くことが多く、個々への対応にとれる時間は限られています。じっくり一人ひとりと向き合おうとしている先生もたくさんいますが、その先生たちの多くがジレンマを感じています。「時間が足りない…」と。わたしもその一人でした。
「コーチ」は、学校や塾の先生とは違い、お互いに向き合うような「教えるー教えてもらう」という関係を築くのではありません。「同じ方向を向き、伴走しながら一緒にゴールをめざす存在」というとわかりやすいでしょうか。
対話を重ねながら、一緒に試行錯誤しながら、本人がめざすゴールへ一歩ずつ進んでいくようサポートする。それが「コーチ」です。
では、教育の場での「ゴール」とは何でしょう?
それは、一人ひとり違います。「漢字が覚えられるようになりたい」「計算がすらすらできるようになりたい」「集中して宿題ができるようになりたい」など、学習面のゴールを設定する子もいます。
一方で「学校で不安なことがある」「心配ごとがある」「なんだか分からないけど、やる気がでない」などの困り感を抱えている子もいます。
子ども自身が困っていること、心配なこと、もっとこうなりたいと思っていること、そのひとつひとつに寄り添いながら、一緒によりよい解決法を探っていくことが「コーチ」の役割です。
では、実際に、わたし自身が「コーチ」として大切にしていることを、6つご紹介します。
「コーチ」としての役割① 子どもの声に耳を傾ける
「コーチング」という言葉が少しずつ日本でも広まりつつあります。「コーチ」として大切なことのひとつが「聴く」こと。こちらから「こうしなさい」「これはこうだよ」と教えるのではなく、子どもの声をひたすら聴きます。
「どんなことで困っているのか」「どうなりたいのか」「今までどんなことをためしてきたのか」「それとも、ためしていないのか」「それはなぜか」など、子どもが話しやすいような質問を投げかけながら、子どもの心の奥の声を聴くようにしています。
話していくうちに、子ども自身が、気づいていなかった気持ちに気づくこともあります。
「コーチ」としての役割② 子どもの「困った」を一緒に考える
「相談にくる」ということは、何かしら「困った」ことがあることがほとんど。ただ、親の「困った」ことと、子どもの「困った」ことと異なることもあります。
まずは、親側の「困り感」やこうなってほしいというゴールを聴き取るようにしています。そして、実際に、子ども自身の話に耳を傾けます。そのとき、親側の「困り感」などは一切伝えないようにしています。
一番大切なことは、子ども自身の「困っていること」だからです。それを解決した先には、必ず、親の困り感の解決につながるので、親ありきではなく、「子どもの気持ち」を何よりも大切にするようにしています。
「コーチ」としての役割③ 子どもの課題をクリアできるようサポート
「困っている」ことを共有できたら、それを解決するにはどうしたらいいのかを一緒に考えていくようにしています。めざすゴールを設定し、そこへ向かうために、今何から始めるのかを考えていきます。
子どもから出てくる解決策は、選択肢が少ない場合もあります。それは経験値に関係するので、仕方のないことです。そこで、新たな解決策としていくつかあげて、子どもに選んでもらうということも。大事なことは、子ども自身が自分で選ぶこと。「これをやってみたら」とこちらから一方的に押し付けることはしません。
一気にゴールをめざすのでなく、少しずつ一歩ずつを大切にしています。遠いゴールを設定してしまうと、そこへ向かうまでに息切れしてしまう子も少なくありません。「一歩でも自力で進めた」という実感が何よりも大切になります。
「コーチ」としての役割④ スモールステップでふりかえり
「コーチ」は、毎日顔を合わせるのではないので、次に会ったときには、まずふりかえりからはじめます。「どうだった?」というようなふんわりした感じで。
できなかったり、うまくいかなかったりしても、それをそのまま受け入れます。「できなかった」「うまくいかなかった」ということも、子どもにとっては成長材料になるからです。
「じゃ、なんでうまくいかなかったのか、一緒に考えようか…」と次の作戦を一緒に考えればいいわけです。
「コーチ」としての役割⑤ 子どもの成長の様子を家庭にかえす
学校にいたときに、「学校の様子がわからない」という声をよく聞きました。学級通信などでクラスの様子などは伝えるようにしていましたが、個々の成長や様子を伝える機会は少なかったです。
実際、直接、学校から連絡をするときは、どうしてもトラブル関連のことが多く、うれしい成長や変化などをそのつど伝える機会はほとんどありませんでした。面談などで伝えていましたが、タイムラグはどうしても生じてしまいます。
学校ではできなかったことが「コーチ」はできます。一回一回の子どもの様子や変化をなるべくわかりやすいように、ご家庭へ伝えるようにしています。「うちの子、ほめるところがほとんどない…」というお母さんも、これを見れば「今日はこんなことをがんばったんだね」とお子さんに伝えることができると考えています。
家の外での様子を知ること、成長を感じることができることは、親にとっても子どもにとっても、プラスになります。
「コーチ」としての役割⑥ 学校・家とは違う、もうひとつの居場所に
以前、「習い事が子どもにとって第3の居場所のなる」ということを書きました。
習い事と同じように「コーチ」という存在が、子どもにとって「もうひとつの居場所」になるのではないかと思っています。
ご相談を受けた段階では「数回だけ」の予定だった子が、継続したいと言ってくれていることを見ても、「コーチ」という存在が子どもにもらたす影響は大きいと感じています。
家でもない、学校でもない、もうひとつの居場所。さらに、その居場所は、自分だけを見てくれる場所。となれば、子どもの精神的な支えになることもできるのではないかと考えています。
【まとめ】これからは、教育現場にこそ「コーチ」を!
学校や家庭での悩みを抱えた子に、どのような寄り添うのか…。教員だったころ、大きな課題でした。寄り添いたいけれど、時間が限られている。教えなくてはならないこと、指導しなくてはならないこともたくさんある。そんなジレンマを抱えて、子どもたちと過ごしてきました。
今、立場が変わり、実際「コーチ」として活動をはじめて、「コーチ」のもたらす影響力を感じています。学校の先生ではできないことが、「コーチ」ならできる!いずれ、「コーチ」と学校が連携できるようなしくみが整ったらいいなぁと夢のようなことを考えたりしています。
ただ、その一方で、「コーチ」としての資質やスキルも必要だと実感しています。
ここまで読んでくださった方の中には、もしかしたら「コーチ」という存在に興味をもってくださった方もいるかもしれません。でも、「コーチ」といっても、さまざまな方がいるので、しっかりと選んでいただきたいと思います。
「チャイルドコーチング」という資格もありますが、まだまだ民間のもの。コーチングという手法は身についても、子どもと関わった経験が少ないと、一人ひとりに寄り添うサポートはむずかしいかもしれません。また、実際に子どもと関わるときには、親は別室または別の場所にいてもらうことが多いです。そんなとき、信頼できる「コーチ」でないと、心配ですよね。
これから、お子さんをコーチングしてもらいたいと思っている方がいらっしゃったら、まずは信頼できる「コーチ」を見つけてください。また、機会があれば、コーチを選ぶときのポイントなどもお伝えできればと思っています。
一人での多くの子どもの笑顔が見たい!
信頼できるコーチに出会い、一人でも多くの子どもたちに笑顔と自信が訪れますように…
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